アジア太平洋 · トレンド分析

ヒューマノイドロボットのブーム、その中心にアジアがいる理由

世界で出荷されるヒューマノイドロボットの大半を、いまやアジアが占めている。中国の量産力、日本の労働力不足、韓国の産業政策、台湾とシンガポールのサプライチェーンがどう重なり合ってブームを生んでいるのか。そして、なお残る現実的な制約を解説する。

Unitree G1+の発表動画に映るヒューマノイドロボット
Unitree「G1+」の発表動画の一場面。アジアで広がるヒューマノイド開発を示す参考画像であり、長時間の自律稼働を実証するものではありません。画像:Unitree/Humanoids Daily。

ブームを示す数字

IDCによると、2026年上半期に世界のヒューマノイドロボットメーカーが出荷した台数は約2万5,000台に達し、前年同期比で430%を超える増加となった。売上高は7億4,000万米ドルを超えた。別の調査機関は同じ期間の出荷台数を約1万9,000~2万2,000台と推計しているが、共通する見方はある。中国企業が全体の95%超を出荷し、上位10社のうち9社を中国企業が占めた。

AgiBotは上半期だけで約8,600台を出荷し、2026年9月には累計2万台目のロボットを生産したとしている。Unitreeの出荷は約5,000台だった。UBTech、Leju、Galbot、Astribot、Fourier、Boosterも名を連ねる。3年前には、こうした顔ぶれを想像するのは難しかっただろう。世界出荷の約78%は中国の購入者向けであり、ブームを支えているのが中国国内の需要であることがうかがえる。

中国:量産力、サプライチェーン、政策

中国の優位性は、大きく3つある。1つ目は、電気自動車や電子機器のサプライチェーンが、モーター、減速機、センサー、バッテリーを大規模に生産できることだ。ロボットのコストの大半を占める中核部品は、現在ではその多くを国内で生産できる。2つ目は急速な価格低下だ。ヒューマノイドロボットの平均価格は1年で約3万7,000米ドルから約2万9,600米ドルに下がり、エントリーモデルは1万元を下回っている。3つ目は政策の後押しだ。中国の第15次五カ年計画は、ロボットと身体性を備えたAIを産業高度化の中核に位置づける。上海市は、2030年までに工場へ10万台のヒューマノイドロボットを導入する目標を掲げている。

資本市場もこの動きに加わった。Unitreeは2026年8月に上海で上場し、約61億元を調達。応募倍率は数千倍に達した。初日の終値は460%高となったが、その後は高値から大きく下落した。業界への期待の高さと、相場の激しさの両方を物語っている。

日本:労働力不足の解消をロボットに託す

日本が取り組みを進める背景には、人口動態の変化がある。政府は、製造、物流、医療、介護など18分野で、2040年までにAI搭載ロボットを1,000万台導入する目標を掲げている。SoftBankやFujitsuなどの大手を含む40社以上が、AI搭載ヒューマノイドの開発に取り組むと表明した。日本のスタートアップは病院や介護施設でヒューマノイドの実証を進めている。保険会社もロボット導入に備えた保険の設計を始めており、実運用への準備が進みつつある。

韓国:自動化が進む工場からヒューマノイドへ

韓国は、製造業の従業員1万人当たり1,000台超の産業用ロボットを擁し、ロボット密度で世界首位に立つ。政府の支援を受けるK-Humanoid Allianceには約40の組織が参加し、2030年までに1兆ウォンを超える投資を行うことと、国内のロボット基盤モデル・プラットフォームを構築することを目標としている。Boston Dynamicsを傘下に持つHyundai Motor Groupは、2028年までに年間3万台のロボットを生産できる体制を整える計画だ。Samsung Medical Centerはヒューマノイドによる手術支援を実演した。規制当局も、工場でのヒューマノイド試験に向けた規制サンドボックスを設けている。

台湾とシンガポール:頭脳と手

台湾の役割は目立ちにくいが、欠かせない。半導体、サーバー、精密部品の産業が、ロボットに必要な計算能力を支えている。2026年の台北国際コンピューター見本市(Computex)では、ロボットとフィジカルAIの専用展示ゾーンが初めて設けられた。NVIDIAは同展示会で、オープンなヒューマノイドのリファレンス設計を発表した。Foxconnはロボット製造プラットフォームの構築を進めており、量産に焦点を当てた合弁事業も含まれる。触覚センサーを備えたロボットハンドを手がけるシンガポールのSharpaは、このリファレンス設計のパートナーだ。シンガポールは引き続き、試験とガバナンスの拠点としての位置づけを強めている。

ブームの限界

ブームは確かに起きているが、業界の多くはまだ初期段階にある。上半期の出荷台数の約69%は、研究・教育、パフォーマンスや展示、政府のデータ収集センター向けで、フルタイムの生産活動に使われたわけではない。国際ロボット連盟(IFR)によると、2025年に商業・専門用途で販売されたフルサイズのヒューマノイドは、世界で約7,000台にとどまった。同連盟は、用途の大半がまだ限定的で、多くの場合、人による遠隔操作に頼っているとも指摘している。

地政学も制約要因だ。2026年7月、米国は国家安全保障を理由に、中国製のヒューマノイドと四足歩行ロボットの新機種に輸入制限を設けた。既存のすべてのロボットを禁じたわけではなく、公表された措置では発売済みの機種は対象外だ。ただし、既存の認可が取り消される可能性はある。アジアのメーカーは域内や新興国の市場を一段と重視し、欧米企業は自国のサプライチェーン整備を進めることになりそうだ。

アジア太平洋地域の企業にとっての意味

この地域の企業にとって、メッセージは明確だ。ヒューマノイドのハードウェアは、より手頃な価格になり、入手もしやすくなっている。その多くはアジアで製造されている。競争力を左右する要素として、特定の作業を安定してこなせる実用的なツールへと、ロボットを仕立てるアプリケーションの重要性が増している。用途を絞った実証から始め、自社の運用データを集め、社内のスキルを育てる企業ほど、技術の成熟に備えやすい。